後藤特許日記

後藤特許日記(2021年4月)-ベランダの花(2)-

 2021年3月19日、ベランダに海棠(かいどう)の花が開いた。例年より10日ほど早い。艶麗なピンク色が目を引く。桜と同じくバラ科だが、サクラ属ではなくリンゴ属の植物。酔い伏した楊貴妃のイメージから睡り花ともいう。花柄がやや長く少しうつむき加減に咲くので、雨に濡れるとしおらしい姿になる。漢詩では「雨中海棠」という題(春雨に引き立つ海棠の花)が好まれたらしい。小津安二郎の『秋日和』に海棠が出てくる。学生時代からの旧友三人が亡友の七回忌に集まる。亡友の娘の縁談のために協力しようとするが、実はみんなかつて憧れていたその娘の母親、すなわち亡友の妻(原節子)に気があってなんやかやという喜劇的作品。一人(中村伸郎)がもう一人(佐分利信)に、「あんなのを言うんだね。雨に悩める海棠って――。」蕪村の句に、「海棠や白粉(おしろい)に紅をあやまてる」というのがある。海棠という花は、まるで、白粉の上に誤って紅を引いたような色合いだ(過ちが功を奏していっそう魅力が増した)。もちろん、眠たげに化粧をする楊貴妃のイメージを重ねている。花が終わるとサクランボの十分の一ほどの実がなる。実は硬く、リンゴのミニチュアのようだ。サクラ属でなくリンゴ属である所以か。
                                        後藤 幸久

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